4月末に本マス(サクラマス)を買った。青森産。これで燻製をつくる。冷燻で好みの木はナラ。作りはじめて40年以上たつが、食うタッピゴメに脳髄はよろこびでみたされる、すっごくうまい。同じく、年イッペンのヤマヤサイの味覚にも近い。また1年を生き延びたと体に実感させる味。
本マスは塩焼きでもうまい。ほどよく脂ののったそれは繊細微妙さでサケを越える。ちょうど出てくるキノメにモザイてまぶして食うとたまらない。キノメに生卵もいいが、甲乙つけがたいと思う。
サクラマスはヤマメの降海型で春に帰ってくるのを沿海でとる。ふるさとの川に帰ってきたのは川マス。ナジョニカうまいときくばかりで、未だ食ったことはない。死ぬまでに食ってみたいものだ。
そうだ、子どもの頃オオカワ(魚野川)でミズアビ(川あそび)をしていた時、大きなヤスを持った大人に会ったことがある。きみたち(でなくニシラ、ネラ、オマエラのどれか)デッコイ魚を見なかったか、ときかれた。その人たちは二人組のマスとりだった。見ていると、川に飛びこむと沈み、流れにのって何分も浮いてこなかった。よくもまあ息が続くものだとたまげた。大きなアギ(カエシ)のついたヤスは自分たちのそれとあまりにちがっていた。その時はとれなかった。その後、深い急な流れに入ることができない子どもは本流を横から眺めたりしたが、ついぞマスを見ることはなかった。


見たのはミズカガミ(ハコメガネ)でなくスイガンキョウ(水眼鏡ミズメガネか)だった。何でもゴミは川に流す時代でヤギの死体にいきあったときにはたまげた。
マスだった。ショーマス(塩マス)というのは、昔たまーに焼いたのが食卓に上ることはあった。その原料はおそらく本マスでなくB級のカラフトマスか青マスだろうと、あとで思った。しょっぱくって生ぐさいものだった。子どものころサシミなんて見たことも食ったこともなかった世代だ(コイのアライ以外は)。海の魚も塩乾物だけだった。味噌汁のダシに入っていたニボンもカルシウムに蛋白質だといわれて食った。
しょっぱいショーマスをまるごとまんまに炊きこんだマスメシというのを、1年に1回くらい食った。大人には大ゴッツォ御馳走だったらしいが、こどもには?だった。時に小骨にあたったり、なまぐさくてアンマリだった。
最近は本マスに惚れているのでトシトリザカナも本マスにしている。初夏に買ってきて掃除し強塩(ゴージオ)にして冷蔵庫に数日おく。とりだして水洗いしふきとり新たに軽く塩をして冷凍しておく。家庭用冷凍庫ではカンペキな保存はできないが、食える。大晦日にこれを食うのは人生の楽しみの一つになっている。
最初の冷燻にしたマスの残りの頭と骨はもちろん捨てない。塩をしておいたのをシモフリ(熱湯にさっとくぐらせ冷水にとり、ソージする)にして圧力鍋で40分。その煮汁に今回は冷蔵庫から出てきた5ヶ月前とった白菜と人参を入れて煮た。ヘラ(舌)に感覚を集中して味をつける。塩と醤油少々、甘みは加えない。そのスープを吸う。野菜とマスのうまみが合わさり、すっきりしているのにコクがある。うーん。思いついて柚子コショウ少々。でノーサラうまい。和食では吸い物の香辛料をクチという。画龍点晴。骨も頭も野菜ももりもり食う。からだの芯からうまい。真にうまい。
※最近は養殖の本マスもあるらしいが未食。書いたのは天然モノのハナシです。(我田 大)
