今は昔は今 60 焼エンダイブ  エンダイブというサラダ野菜がある。チリチリカールした葉が特徴。見たら忘れない。食べるとほろにがくてシャキシャキしている。しかしこれ単独より、たとえば、レタス、赤玉葱、キャベツ、クレソン、トレビスなどとまぜて、フレンチドレッシングであえたサラダのほうが、私は好きだ。少量のおろしニンニク、アンチョビも加えたい。オリーブオイルはエクストラバージンのちょっといいやつ。酢は白ワインビネガーにタラゴン(植えてある)を漬けたタラゴンビネガーがいい。胡椒はブラックの挽きたて。あと塩(ラテン語sal、サラダの語源)で、これ ぞサラダという味だ(と思う)。本場ヨーロッパでサラダを食ったことはないが、それらの野菜を全部ジブンで栽培し、料理して食ったら舌がうまいというから、合格と思っている。  エンダイブは8月上旬に種をまき、ポットに移して苗をヨーセイする。苗はレタス類の常でひょろひょろ軟弱。暑い時期なので家の北側の半日陰で管理する。メンドッチイが趣味道楽となればしょうがない。涼しくなった9月に定植する。放任主義の私はマルチやトンネルはしていない。食いたい一心でやってきただけでこれが正しい栽培法かどうかは知らない我(田)流。この曲が りなりな(?)やり方でも、 11月から雪が降らなければ 12 月にそれなりのがとれる。売っている、結束して中心部を軟白した美麗なのには比べるべくもない外観だ。枯れ葉、腐った葉がついてコキタナゲ。しかし味は売っているのの淡泊さにくらべワイルドで良いと思う。自分の子や孫はメゴイ、ソイもあるか。  エンダイブといえば大場秀章さん(植物分類学の泰斗)は、その『サラダ野菜の植物史』(2004、出るとすぐ買った)のなかで、学者という立場を少々逸脱しエンダイブへの愛を告白していられるのが、同じエンダイブ好きとして、ほほえまうれ しい。四角四面じゃない大先生、と思っていたら、さほど年上でないのにビックリした。  さて昨年冬にミラノでレストランをやっているというインド人が店に来た。カタコトのニホン語で話した。作っているイタリア野菜の名前をならべた。こんなザイゴーでも作っているヤツがいるぞと自慢心も少々。話しているうちにエンダイブ好きで一致した。アレは焼くとうまいよバルサミコかけて、と教えてもらった。私には焼くというかんがえはなかった。  晩秋になってエンダイブがとれた。年をとっても食い物のことは忘れない。雀百まで踊り忘れず。焼エンダイ ブ、どうする。経験と知識を動員。焼くといっても直火でなくフライパン。オリーブオイルでニンニクのみじん切りをいため、そこにエンダイブ。裏表をこんがり。味つけは塩、バルサミコ。あがりにブラックペパー。これでどうだ。  うれしはずかし初体験。見た目はコキタナゲだが。苦味は押さえられて、ほろにがていど。しゃきしゃきもクタッとはしたが歯ごたえはあり。いろいろ味と香りの合わさった徴妙な味がいい。ちょうどあった、むいたオニグルミをパラパラかける。さらに複雑さが増していい。ワインのつまみとして上々、蛋白質なしで。何回も試作 して(は飲んで)さらに拡大、洗練させた。  サラダ用にはガワッパのコーチネーところは大胆にブチャッテいたが、焼き、は全体を食えるのもいい。エンダイブの市価(高い)を思えば、自作はタダドーゼンで食えるのもいい。なに様にむかってだかわからないけど、ザマミロとつぶやく。うまいよ。 (我田 大、『季節料理 大』主人)